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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)45号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯及び本件訴訟の原告適格)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 引用例記載の線運動玉軸受において、負荷伝導板は軸の円周方向に揺動及び移動することができるものであるとした審決の認定が誤りであるか否かについて検討する。

(一) 成立に争いのない甲第一〇号証(引用例)によれば、引用例記載の発明は、「自動調心形線運動ボールベアリングを提供することを目的とする。」(第二欄第一八、第一九行)ものであり、その特許請求の範囲は、「ボール保持器内部に形成された複数個のレースウエーを有し、各レースウエーが負荷支持部と無負荷部を有するとともに実質上ボールと各レースウエーの負荷支持部に取付けられた負荷伝導板で充填されてなる、シヤフトに沿つて軸方向に移動する線運動ボールベアリングにおいて、各負荷伝導板に厚さの厚い中間部を設けるとともに該部から離れた外面上にテーパーを付けてシヤフトが保持器との同軸整合から角度変位したときに、これらの板が揺動できるようにしたことを特徴とする自動調心形ボールベアリング。」であることが認められる。そして、同号証によれば、引用例の発明の詳細な説明(以下引用例の発明の詳細な説明の記載のうち、引用例の第一ないし第六図《別紙図面(二)参照》に図示された実施例に関するものを「第一実施例」、第七ないし第一一図《別紙図面(二)参照》に図示された実施例に関するものを「第二実施例」と表示する場合がある。)には、引用例記載のものの負荷伝導板に設けられる中間部とテーパーについて、「各負荷伝導板の中央の肉厚部から離れた外面上にはテーパーが設けられる。」(第三欄第二二ないし第二四行)、「部材6の夫々には、その外部に、端部26よりも厚い中間部または長さ方向の中央部24が形成される。中間部24は、なるべく、その外面上に両端に小さい角度で向う長さ方向のテーパーを設けることが望ましい。これによりこの中間曲線部24は、部材6をこれが埋められかつシヤフト2がベアリングの軸に対して角度変位するときに保持される保持器の弾性体のわずかな変位によつて揺動可能とする揺動支点を形成している。」(第六欄第一ないし第九行。「第一実施例」。別紙図面(二)第六図参照)、「各板46の中央部は、その長さ方向の両端部よりも厚くかつ、この板には、板46の中央に外部の支点56から両方向にテーパーがつけられている。」(第七欄第二〇ないし第二三行。「第二実施例」。別紙図面(二)第一〇図参照)と記載され、また、負荷伝導板の作動について、「シヤフトが保持器の軸に対してある角度変位すると、負荷伝導部材が保持器の弾性材料を圧縮ないしは曲げつつ、その肉厚部の周りを揺動し、この結果、負荷伝導部材は、実質上ベアリングシヤフトに平行な状態を堅持する。」(第三欄第四〇ないし第四四行)、「この発明においては、保持器の弾性によつて、部材6がその制御ないしは中間部分の周りに揺動することの可能な揺動アクシヨンによつてシヤフトが角度変位するとともに負荷伝導ボールの自動調心作用が誘起される。」(第六欄第四二行ないし第七欄第二行。「第一実施例」。)、「ベアリングの自動調心作用のために、その支点56の周りを移動可能の負荷伝導板46(後略)」(第八欄第四ないし第六行。「第二実施例」。)と記載されていること、そして、「板の揺動作用によりベアリング内孔径が減少する」(第三欄第二四、第二五行)、さらに、「スリーブ42には板46の動きを妨害しないようなおう部43が設けられている。」(第八欄第七、第八行。「第二実施例」。)と記載されていること、第二実施例においては、負荷伝導板46の底面には対接物がないもの(別紙図面(二)第七図参照)が、第一実施例では、ボール保持器1の境界端縁14と負荷伝導板6のテーパー端縁12とは対接しているが、右境界端縁を有する部材には、その下方においてくびれ溝が形成されているもの(別紙図面(二)第二図参照)がそれぞれ示されていることが認められる。

引用例記載の発明の特許請求の範囲、引用例の発明の詳細な説明に記載されている負荷伝導板の中間部とテーパーの形状及び作動、負荷伝導板の揺動作用によりベアリング内孔径が減少すること、並びに引用例には、実施例として前記おう部やくびれ溝が設けられているものが示されていることなど前記認定事実を総合すると、引用例記載の線運動玉軸受において、負荷伝導板6、46は、厚さの厚い中間部24、56を支点として、その前後に、すなわち半径方向に揺動することができるように取り付けられているものであり、負荷伝導板6、46が半径方向に揺動した場合には、その一端が円筒状スリーブ30、スプリツトブロツク80に圧接しようとするので、これを防止して所期の目的を達成するために負荷伝導板6、46の中央の肉厚部から離れた外面上にテーパーが設けられているものと認められ、引用例には、軸がボール保持器との同軸整合から角度変位したときに、負荷伝導板が半径方向に揺動することによつて、不整合を解決する自動調心作用を得る技術が開示されているものと認めるのが相当である。

(二) 被告は、引用例の発明の詳細な説明中の「この発明の改良は、各負荷伝導板を、ボール保持器の軸と平行におよびこれから外れて揺動せしめることによつて達せられ、」(第三欄第二〇ないし第二二行)との記載は、引用例記載のものの負荷伝導板が半径方向の揺動だけでなく、軸の円周方向への揺動及び移動をもできることを示しており、このことは、引用例記載のものにおけるボール保持器1及び外胴40が弾性材料で作られ、しかも、その可撓性を増すために溝10、64等が設けられているため、負荷伝導板6、46は円周方向に揺動及び移動ができるように弾力的に支持されていることから明らかである旨主張する(被告の答弁及び主張二1(一)(二)(1))。

しかしながら、前項において説示したとおり、引用例には、負荷伝導板が半径方向に揺動することによつて自動調心作用を得る技術が開示されており、その点に引用例記載の発明の要旨が存するものというべきであり、したがつて、引用例の第三欄第二〇ないし第二二行に記載されている前記事項も、各負荷伝導板をボール保持器の軸と平行、非平行のいずれにもなり得るように揺動させること、すなわち、各負荷伝導板は半径方向に揺動するものであることを示していると解するのが相当である。

次に、前掲甲第一〇号証によれば、引用例記載のものの保持器1、外胴40はナイロンやデルリンのような弾性プラスチツク材料で形成されるものであり(第四欄第一六ないし第二〇行、第八欄第一七ないし第一九行)、引用例の発明の詳細な説明には、「保持器1は、(中略)レースウエー3の境界縁11を形成する溝10を有するように、(中略)形成される。」(第五欄第四ないし第一〇行。「第一実施例」。別紙図面(二)第二図参照)、「突起62の弾性を増すために、各対の突起62の少なくとも一つに隣接した胴40の外部に、長さ方向にのびる溝64が設けられる。」(第七欄第三三ないし第三六行。「第二実施例」。別紙図面(二)参照)と記載されていることが認められるが、同じく引用例の発明の詳細な説明には、「溝10は、(中略)負荷伝導板の迅速なそう入および取り出しを可能とするものであることが理解されよう。」(第五欄第二七ないし第三〇行。「第一実施例」。)と記載され、また、前記第七欄第三三ないし第三六行の記載は、「板46が使用のために取り付ける前に軸方向、円周方向および半径方向に移動しないようにこれをそれぞれ開口44に保持するための手段が設けられる。このために、各板46の長さ方向の両側端縁は、外胴40と一体の弾性突起62と係合しかつ板46を第七図に示したようにその開口44中の半径方向の内方に押すことを許容する溝60が形成されている。」(第七欄第二六ないし第三三行)なる記載に続くものであることからしても、第一実施例における溝10は負荷伝導板6をボール保持器1に挿入したり、取り出したりすることを可能ならしめるために設けられているものであり、また、第二実施例における溝64も外胴40の弾性突起62が負荷伝導板46の溝60に着座することを容易ならしめるために設けられているものであつて、いずれも負荷伝導板6、46が軸の円周方向に揺動、移動することを許容することを目的として設けられたものでないことは明らかである。

なお、前掲甲第一〇号証によれば、引用例には、「突起62は弾力性を有しているため、ベアリングが自動調心状態のもとで作動する場合、板46に要求される角運動に対する抵抗は実質上全くない。」(第八欄第一〇ないし第一三行)と記載されていることが認められるが、右記載が、負荷伝導板は軸の円周方向に揺動及び移動することが可能であることを教示していると認めることはできない。

以上のとおりであつて、被告の前記主張は採用できない。

(三) 次に、被告は、引用例の発明の詳細な説明に、「板の揺動作用によりベアリング内孔径が減少する」(第三欄第二四、第二五行)と記載されている点について、負荷伝導板が半径方向に揺動しても、「ベアリング内孔径が減少する」という現象は生じないとし、右記載は負荷伝導板の円周方向の揺動を示唆したものである旨主張する(被告の答弁及び主張二1(三)(1)ないし(3))。

右記載中「ベアリング内孔径」とは、直径線上で相対向する一対の負荷伝導板の間隔を意味し、引用例が「ベアリング内孔径が減少する」としたのは、右一対の負荷伝導板のうち荷重のかかる一方の負荷伝導板がその支点を中心に傾斜すると、荷重のかからない他方の負荷伝導板は、ボールとの間に僅少な隙間が存在するため、その支点を中心に一方の負荷伝導板と平行に傾斜する、すなわち、一対の負荷伝導板の間隔は変わり、ベアリングの内孔径が減少する旨を開示したものであると解される。右のように解することによつて、右記載に続く「外部の揺動面の形状は重要である。」(第三欄第二五、第二六行)という記載の趣旨も理解し得るものというべきである。してみれば、引用例の第三欄第二四、第二五行の前記記載は、引用例記載のものの負荷伝導板は半径方向に揺動するものであることを裏付けるものであるといわなければならない。

被告は、通常、鋼材が用いられるこの種の軸では、軸の強度が大きいため圧縮変形はほとんどないから、負荷伝導板を保持するボール保持器1の方が変形して、内孔径の従前の寸法(別紙図面(三)のa)は維持されると考えるべきである旨主張する。

確かに軸の圧縮変形はほとんどないものと考えられるが、負荷伝導板の支点が当接する部材も、鋼のような硬質の(引用例第六欄第二八行)円筒状スリーブ30又はスプリツトブロツク80であつて、同様に圧縮変形がほとんど生じないものと考えられるから、前記のとおり、直径線上で相対向する一対の負荷伝導板のうち荷重のかかる一方の負荷伝導板がその支点を中心に傾斜すると、荷重のかからない他方の負荷伝導板は、ボールとの間に僅少な隙間が存在するため、その支点を中心に一方の負荷伝導板と平行に傾斜する、すなわち、一対の負荷伝導板の間隔は変わり、ベアリングの内孔径が減少するものと認めるのが相当であつて、被告の右主張は採用できない。

また、被告は、軸が傾斜したとき、別紙図面(三)の上下の負荷伝導板が互いに軸方向に離れるように移動するのを許すように変形して、寸法bはaと同じ値を保つと考えるのが常識的である旨主張するが、前掲甲第一〇号証によれば、引用例の詳細な説明には、「負荷伝導板は、この保持器に、軸方向に移動し得ないように、固定される。」(第三欄第一三、第一四行)と記載されていることが認められるから、右主張も採用できない。

被告の答弁及び主張二1(三)(3)における主張も、前記「ベアリング内孔径が減少する」との記載に独自の意味付けをして立論する以上のものではないと解せられる。

右のとおりであつて、引用例第三欄第二四、第二五行の前記記載は負荷伝導板の円周方向の揺動を示唆したものである旨の被告の主張は理由がない。

(四) さらに、被告は、その答弁及び主張二1(三)(4)において、仮に原告の主張するように、引用例記載のものにおける負荷伝導板の中央部の支点は、円周方向に伸びる弧状の稜線であるから、この稜線が支点となる限り円周方向の揺動はできないとすれば、負荷伝導板が半径方向に揺動する際、該半径方向に対して、ある角度、例えば九〇度の位置にある半径上の負荷伝導板は円周方向の揺動ができないことになり、理に合わないから、引用例記載のものにおける負荷伝導板も、本願第一の発明における荷重支持板と同様に、その中心まわりの円周方向の揺動は可能であると解すべきであると主張し、また、前同二1(二)(2)においても、同一の主張を前提とする主張をしているので、検討する。

前(一)項において認定したとおり、引用例には、軸が保持器との同軸整合から角度変位したときに、負荷伝導板が半径方向に揺動することによつて、不整合を解決する自動調心作用を得る技術が開示されているものの、右半径方向の揺動に伴つて、他の負荷伝導板がどのような運動をするのかについては引用例には何ら記載されていない。

しかしながら、被告が主張するとおり、引用例記載のものの構造に基づき、負荷伝導板が半径方向に揺動すると、右負荷伝導板の半径方向に対してある角度(九〇度の場合が最も顕著である。)異なる位置にある半径上の負荷伝導板は、物理上円周方向に揺動せざるを得ないものと認められる。

(五) 以上(一)ないし(三)で判示したとおり、引用例には、負荷伝導板を軸の円周方向の移動はもとより、円周方向に揺動できるように取り付ける手段を設けることを積極的、明示的に開示し、あるいは示唆する記載は存しないが、右(四)で判示したとおり引用例記載のものの構造上、負荷伝導板は軸の円周方向に揺動できるように取り付けられているものと認められる。

したがつて、審決が、引用例記載のものについて、軸の円周方向に負荷伝導板の全体が移動することも可能であるとした点は誤りであるが、負荷伝導板は軸の円周方向に揺動することができるものとした点に誤りはないものというべきである。

2 そこで、引用例記載のものにおける負荷伝導板が軸の円周方向に揺動のみするものであつたとしても、負荷伝導板の取付け状態を変更して誤差を吸収することが示されている以上、負荷伝導板を円周方向にも移動できるようにすることは、必要に応じて当業者が容易に思い付くことである、とした審決の判断の当否について検討する。

被告は、引用例記載のものにおいて、負荷伝導板が円周方向に揺動できるということは、円周方向に移動できるということにほかならないから、負荷伝導板を円周方向に移動できるようにすることは、必要に応じて当業者が容易に思い付くことである旨主張する。

しかしながら、本願第一の発明は、前記構成からいつて、荷重支持板の軸に対する円周方向の位置の誤差及び荷重支持板と軸との平行度の誤差を吸収するものであるのに対し、引用例記載のものは、半径方向の揺動と円周方向の揺動とによつて負荷伝導板と軸との平行度の誤差を吸収するものであるから、本願第一の発明と引用例記載のものとは、その技術的思想を異にすること、引用例記載のものにおいて、負荷伝導板は円周方向に揺動するものであり、ボール保持器及び外胴は弾性プラスチツク材料で形成されるものであるけれども、前掲甲第一〇号証によれば、引用例記載の第二図、第七図には、引用例記載の発明の実施例として、負荷伝導板がボール保持器1あるいは外胴40によつて両側面を挟圧されるような状態で装着されているものが示されていることが認められ、しかも、負荷伝導板をボール保持器に着脱することを可能ならしめ、あるいは外胴の弾性突起が負荷伝導板の溝に着座することを容易ならしめるための溝が設けられていることさきにみたとおりであるから、引用例記載のものにおいて、負荷伝導板が円周方向に揺動するからといつて、当然に円周方向に移動できるものでないことは明らかである。したがつて、被告の右主張は採用できず、審決の前記判断は誤つているものというべきである。

そして、右判断の誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1) 内側玉保持器に少なくとも一つのレースウエーを形成し、前記レースウエーは荷重支持部と荷重のかからない部分とを備えるとともに実質上玉をみたし、前記レースウエーの荷重支持部には荷重支持板を設けてなる、軸に沿つて軸方向に移動する線運動玉軸受において、前記荷重支持板を前記レースウエーの荷重支持部に、前記荷重支持板が内側玉保持器の内部を、軸受を取付ける軸の円周方向に移動できるように取付ける手段を設けることを特徴とする、線運動玉軸受。(以下「本願第一の発明」という。)

(2) 玉保持器に少なくとも一つのレースウエーを形成し、前記レースウエーは荷重支持部と荷重のかからない部分とを備えるとともに実質上玉をみたし、前記レースウエーの荷重支持部には荷重支持板を設けてなる、軸受が軸の軸方向に移動する線運動玉軸受と軸の組立体において、前記荷重支持板を前記レースウエーの荷重支持部に、前記荷重支持板が前記軸の円周方向に移動できるように取付ける手段を設けるとともに前記軸に、保持器のレースウエーの荷重支持部と整合する少なくとも一つの軸方向にのびる金属製の玉の適合する溝を設けたことを特徴とする線運動玉軸受と軸の組立体。

(3) 内側玉保持器に形成された少なくとも一つのレースウエーを有し、前記レースウエーは、荷重支持部と、荷重がかからない部分とを有し、かつ実質上玉でみたされ、前記レースウエーの荷重支持部に荷重支持板が設けられた、軸に沿つて軸方向に移動する線運動玉軸受において、前記荷重支持板を前記レースウエーの荷重支持部に、前記荷重支持板が内側玉保持器の内部を、前記軸受を取り付ける軸の円周方向に移動できるように取り付ける手段を設け、かつ十分な幅の長さ方向の開口を備え、これによつて軸受が移動するに適した軸を、軸と軸受の間の相対的な移動を阻止することなく、その長さ方向に沿つて支持できるようにしたことを特徴とする線運動玉軸受。

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